「暗夜行路」と不倫
志賀直哉の代表作でもある「暗夜行路」。この話は、身勝手な不倫に巻き込まれた被害者側の話です。未読の人も多いでしょうから、簡単にあらすじを紹介しましょう。
主人公、謙作は祖父の元で育てられ、祖父の死後は祖父の愛人から面倒を見てもらっています。その愛人・お栄と結婚したいと考えるようになるのですが、それがきっかけになり、謙作は自分の出生の秘密を知ることになります。自分は、それまで祖父だと思っていた男の子供だったのです。母と、祖父だと思っていた人が実の父親。主人公はいわゆる不義の証なのです。
そのショックを乗り越えて、どうにか一緒に人生を歩んでいきたいと思える女性と出会い、謙作は結婚します。彼女との間には子供が生まれましたが、生まれてすぐに子供は亡くなってしまいます。とはいえ、二人は睦まじく生活していくのです。めでたし、めでたし。では、ありません。祖父の愛人だったお栄が困ったことになり、謙作は助けに向かいます。その間に今度は奥さんに浮気されてしまうのです。しかも妻の浮気相手は彼女のいとこ。またもや血縁関係に悩まされる羽目になり、もちろん夫婦仲はギクシャクしていきます。最終的に主人公は、自分の死の直前に暗夜行路から抜け出し、すべてを許す心境に至るのですが、普通ならそうはいきません。(小説では、謙作が持ち直したのか、死亡したのかは描かれていません。)
不倫や不義には、裏切られた被害者が存在します。それなのに、中には不倫関係になった自分を、被害者と思い込んでしまうことすらあります。人によって同情すべき不倫事情はあるかもしれませんが、そのほとんどは身勝手な事情です。刑事的な責任は問われないとしても、やはり不倫は気軽にやるべきものではありませんね。