「失楽園」と不倫
渡辺淳一作の「失楽園」は、テレビドラマにもなった有名なダブル不倫の物語です。妻のいる男と、夫のいる女が不倫関係に落ち、その関係に夢中になってあっさりと周囲にばれてしまい、愛を貫くために一緒に死んでいくというストーリーです。
失楽園というタイトルは、ジョン・ミルトンによる、創世記をテーマにした叙事詩がもとになっています。知恵のみを食べて楽園を追放されたアダムとイブの物語に、不倫によって身を持ち崩した二人をなぞらえているわけです。創世記によれば、人類で最初に罪を犯した二人と、不倫が同レベルというのは微妙ではありますが、意図はわからないでもありません。この物語で不倫同士の愛を貫き、追い詰められて心中する二人は、見ようによっては純愛でもあります。
二人にとっては不倫相手こそが至高の愛を貫く、本当の相手なわけですから、「浮気」ではなく本気です。ですが、結婚していたパートナーに裏切られた二人にとっては間違いなく「浮気」です。遊びであろうと本気であろうと、浮気をされた事実は変わりません。
こうした不倫は、社会的に許されないものという意識を誰もが持っています。それでいて不倫に夢中になっている人が多いのはなぜでしょう。もちろん不倫をしている人の中には、惰性や見得、中には事情があって無理やり結婚させられた人、政略的な結婚や偽装結婚もありえるでしょうが、不倫をしている人がみんな、たまたま結婚したあとに、本当に好きだと思える相手に出会えたわけではありませんよね。
実は多くの不倫は、単純な理由があります。社会的にタブーとされる事は、そのまま恋愛の障害になります。なぜか人は障害が多いほど、反対されればされるほど、燃え上がりやすいのです。心理学ではこれを「ロミオとジュリエット効果」と呼びます。ロミオとジュリエットの場合は両親の反対ですが、不倫の場合はもっと多くの反対意見があります。例えば、限定品や在庫の少ない商品を欲しくなってしまうのと心理的には同じです。不倫や浮気をする人が、繰り返してしまったり、せっかく勝ち取った相手に浮気されやすくなったりするのは、同じような「ロミオとジュリエット効果」に弱い下地を持った人を選んでしまうからでもあり、障害がなくなると同時にロミオとジュリエット効果が消えて、愛情が冷めてしまうからでもあります。
不倫をしている当事者にとってはいかに純愛のつもりであっても、他から見れば単なる思い込みに見えてしまうことは、覚悟しなければいけませんね。